事故の責任は自分にもあると言われている
1 過失割合とは
過失割合とは、発生した労災事故に対する使用者と被災者それぞれの責任割合のことをいいます。
労災事故の中には、被災者が使用者の定めた作業手順や標準動作を守らなかったが故に発生するものも残念ながら一定数存在します。労働災害防止のためには使用者による予防措置が重要ですが、使用者がいかに万全な予防措置をとったとしても労働災害を完全に防止することは不可能であり、被災者が使用者の指示に従い、被災者自身の安全衛生義務の履行があって初めて労働災害を防止することができます。
そのため、残念ながら被災者にも一定の過失割合が認められる事案が存在します。
他方で、被災者の不注意により労災事故が発生した場合、使用者は「今まで労災事故が発生したことは一度もなかったため、今回の事故は全て被災者の責任である。」「被災者が使用者の指示に従わなかったことが原因である。」などとして自己の責任を否定することが多々あります。
もっとも、使用者は、労働者が作業効率を重視して、あるいは慣れや慢心から、あるいは咄嗟の反射的な行動から、漫然ないし半ば無意識的に危険な作業手段を取ってしまう可能性を念頭に置きつつ適切な措置を取ることが求められているため、たとえ被災者が使用者の定めた作業手順等と異なる方法で作業をしたが故に労災事故が発生した場合であっても、使用者が一切の責任を免れてしまうことは妥当ではありません。
そこで、損害の公平な分担のためにお互いどの程度責任があるのか、①使用者の被災者に対する安全教育が十分であったか否か(使用者が危険を黙認していたか否かなど。)、②被災者の経験や理解力の程度(ベテランの従業員であり作業手順を熟知している者か否かなど。)、被災者の過失の内容(作業時の危険の明白さの有無、労働者自身の軽率さ、不注意の程度等。)といった要素を総合考慮して過失割合を認定していくことになります。
2 適切な過失割合認定のためには
不当な過失割合で示談をしてしまった場合、賠償金額が数十万円から数百万円不当に減額されてしまうケースもございますので、使用者から過失割合を提示された場合には、必ず提示された過失割合が適正であるのか専門家にご確認されることをお勧めいたします。
以下では、適切な過失割合認定のために重要なポイントを解説します。
(1)証拠の収集
適切な過失割合を算定するためには、まずは、事故状況を正確に把握する必要があります。
事案によっては、どのような事故態様であったのか使用者と被災者の言い分が真正面から対立する場合も存在します。両者の主張が異なる場合には、どちらの主張が真実であるのか証拠に基づいて証明しなければなりませんので、物的証拠の存在が非常に重要です。
そこで、弁護士は、かかる物的証拠の獲得を目指して種々の活動を行います。どのような証拠が必要であるのかは事案によって異なりますが、①(刑事事件に発展している場合には)実況見分調書などの刑事記録を取り寄せて当事者の事故直後の証言や目撃者の有無などを確認する、②労基署が作成した災害調査復命書、監督復命書、是正勧告書などの記録を取り寄せる、③目撃者、他の従業員へ接触し事故状況や安全教育の内容に関する証言を証拠化するなどの活動を行います。勿論、物的証拠の獲得が困難であり、事故当事者の証言のみに基づいて事故状況を証明せざるを得ない事案も多数存在するかと思います。このような場合であっても、証言の説得力を増加させるためのアドバイスなどのサポートなどを行います。
証拠の収集を被害者自身が行うには限界があります。適切な過失割合を主張するために必要な証拠収集についてご不安な方は、お気軽に弁護士にご相談ください。
(2)適正な過失割合の検討
事故状況を正確に把握することができた場合であっても、それがどのように過失割合に結びつくか検討するためには法律的な知識が不可欠です。
交通事故の場合には事故類型ごとにある程度基本の過失割合が定まっていますが、労災事故の場合にはこのような過失割合の基準が存在しないため、過去の大量(数十万件以上)の事件データを分析し、本件事例に参考となる判断がなされていないか徹底的に調査して法的理論を形成することになります。
また、類似の裁判例が存在する場合であっても全く同じ事故は存在しないため同裁判例の判断を修正すべき要素はないのか、本件事故特有の事情は存在しないのかなどあらゆる角度から適正な過失割合を算定する必要があります。使用者や裁判所を説得するためには、単に「自分は悪くない」などと主張するのみでは足りず、同種の裁判例の存在など法的な根拠に基づき説得的な主張を行う必要があります。
当職は、「過失相殺率算定の実務」という過失相殺に関する近時の裁判例を子細に検討した書籍の執筆にも携わっており、過失相殺に関する分析、検討、情報収集には特に力を入れています。
適切な過失割合の認定はは弁護士の腕の見せ所ですので、過失割合にお悩みの方は経験豊富な弁護士へぜひご相談ください。
(3)使用者との交渉・訴訟
残念ながら、労災事故被害に遭われた場合、具体的な過失割合の根拠すら示さずに漫然と被災者側に過失が存在すると主張する使用者が一定数存在します。そのような場合には、使用者の主張する過失割合の具体的な根拠を明らかにしたうえで同主張の適否を確認します。使用者の主張が誤っている場合には、使用者に対して法的根拠を提示したうえで適正な過失割合に修正するように粘り強く交渉を行います。
残念ながら双方の言い分が真っ向から食い違う事案や過失割合の前提となる事故状況が食い違う事案の場合には、最終的には裁判で決着をつけざるをえません。万が一、裁判になってしまった場合であっても有利な過失割合が認定されるようサポートいたしますのでご安心ください。