労災事故にあってしまい、今後どうすればよいかわからない

労災被害に遭われた方が行うべき4つのポイントを紹介します。

ポイント1 労災申請

労働者が業務中や通勤中に負傷し、又は中毒や疾病にかかったことにより、休業もしくは死亡した場合、事業者は、遅滞なく労働基準監督署に対して「労働者死傷病報告」を提出することが義務付けられています(労働安全衛生法100条1項、労働安全衛生規則97条)。

労災申請により労災保険の利用が認められれば、被災者は治療費の負担なく治療が可能になりますので会社と協力して速やかに労災申請をしましょう(会社が労災申請に協力しない場合は、こちら)。

多くの場合、労災申請に会社が協力してくれますが、労災事故の発生や態様が事実と違う記載がなされることもあるため労災申請書の内容についてしっかりご確認することが重要です。

会社の中には,故意または過失により、事実と異なる労災事故態様を記載し,その原因も労働者の責任にしてしまうことがあります。このような労災申請がなされると、あたかも労働者の不注意によって労災事故が発生したかのような調査結果になり、後日、会社に対し安全配慮義務違反を主張して会社の責任を追及しても損害賠償責任が認められない虞があります。

なお、会社が正確な労災発生原因や態様を記載してくれない場合には、事業主証明がなくとも被災者側の記載のみで労災申請を行うことも可能ですので、ご自身にて労災申請することをおすすめします。労災申請後は、労働基準監督署が調査を行い、具体的な労災事故様態等を確定してくれます。

ポイント2 通院の開始

業務が原因のケガ・病気をしたときは、なるべく早く労災病院や労災指定の医療機関を受診するようにしましょう。労災病院や労災指定の医療機関以外の病院への通院も可能ですが、労災病院等への通院と異なり一旦窓口で治療費をお支払いいただき後日返金手続きを行う必要があるためご注意ください。

“忙しいから病院へ行く時間がない”“仕事が休めないため病院へいけない”“放っておけばそのうち良くなるだろう”“病院へいくほど大げさな痛みではない”などの理由で直ぐに病院に行かない方がいらっしゃいますが、病院に行かなかった場合には負傷の事実自体を証明することができない虞や負傷の程度が軽いと判断される虞があります。また、労災事故発生と通院開始までの期間が10日以上空いた場合などには、労災事故による負傷といえるのか自体に疑いが生じ、治療費の支払や賠償請求が一切認められなくなる虞があります。

そのため、全く症状がなく無傷な場合には問題ありませんが、少しでもお身体に異変がある場合には速やかに通院することをおすすめします。

なお、労災事故による通院に関しては、健康保険は利用できず労災保険を利用する必要がありますので健康保険を利用しないようにご注意ください。

ポイント3 事故状況の確認、原因の特定

会社に対する損害賠償請求は、一般的に治療が終了してから行うことになるため労災事故発生から時間が経過していることがほとんどです。示談交渉を開始するタイミングで事故状況に関する証拠を収集したとしても、時間の経過に伴い証拠資料が散逸しているケースや記憶が曖昧になってしまうケースが非常に多いです。

そのため、ポイント1において記載した通り、事故直後の労災申請時に正確な労災発生原因や態様を記載しておくことが肝心です。また、示談交渉時においては自己の責任回避の観点から事故原因について任意の回答が得られない場合があります。労働基準監督署の調査により労災事故様態等がある程度確定しますが、判断過程マスキングされた文書しか入手できない可能性があるため、可能な範囲で事故現場の写真(例:警告書、注意書きの有無。覆いなどの設置状況)を撮影することや作業指示書やマニュアル書の入手、会社の責任者や担当者から事故状況、原因に関する報告(例:安全装置設置の有無、会社からの指示の有無等)を書面・メールなど形に残る方法で入手することなどをおすすめします。

例えば、作業効率化のために安全装置を切りながら作業を行うように会社から指示がなされていた場合、会社に安全配慮義務違反が認められますが、会社から「安全装置をONにして作業をするように指示していたにもかかわらず被災者が独断でスイッチを切った。」などと主張される虞があります。その場合、同指示の有無を巡り言った言わないの水掛け論となってしまうため、同指示がなされたことを客観的な証拠として残しておく必要があります。

ポイント4 弁護士への相談

労災事故被害に遭われた場合、今後どのように進めていけばよいのかご不安な方が多いです。とりわけ、お身体にお痛みがある状況で治療以外のことについても考えを巡らせなければならず精神的にもご負担かと思います。

労災事故直後の状況を考えれば無理もないことかと思いますが、労災事故発生後の初動でミスをしてしまったが故に適正な慰謝料や治療費を受領できなくなるケースも多々存在します。 事後対応でカバーできる事案も多いですが、反対に弁護士といえども取り返しがつかない事態に陥ってしまう事案も一定数存在します。

弁護士へ相談いただければ、今後の見通しや行うべきことについて都度お伝えすることができますので、かかる事態に陥ることを防ぐことができます。また、煩わしい手続きや精神的なご負担から解放されて治療に専念していただくことも可能となります。

正式依頼までしなくても全く問題はありませんので、労災事故発生時には早めに弁護士へ相談いただくことをお勧めします。

© 弁護士 西川 雄介(佐野総合法律事務所所属) – 弁護士による労災事故相談室