1 事案の概要
Xさんは、ベルトコンベヤーの点検作業中にコンベヤー上の水滴をタオルで拭くように上司から指示を受けました。水滴は、ベルトコンベヤー全体に付着していたため、上司はベルトコンベヤーの電源を一瞬ONにして惰性でプーリーを少しずつ動かしながらXさんと共同で作業を行いましたが、Xさんの持っていたタオルがプーリーの可動部に引っかかりそのままXさんの右腕もプーリーに挟まれてしまう事故に遭いました。
法令上、ベルトコンベヤーの点検作業中は機械の運転を停止した状態で行うことが義務付けられていましたが、会社は、電源は一瞬ONにしただけであり、水滴をふき取った際には運転を停止していたため安全配慮義務違反は認められない旨主張しました。
また、法令上、労働者の身体の安全を守るためにベルトコンベヤーには覆い又は囲いなどの設置義務が課せられていたにもかかわらず当該ベルトコンベヤーには覆い又は囲いが設置されていませんでしたが、会社は、覆い又は囲いを設置していない会社が多数存在するため安全配慮義務違反は認められない旨主張しました。
さらに、会社は、賠償責任保険に加入しておらず資金繰りも厳しい会社であるため安全配慮義務違反が認められる場合であっても多額の賠償金支払いは不可能であると主張しました。
2 弁護士の対応と結果
当職は、Xさんからの依頼を受けた後、会社に資力が存在しない場合に備えて、会社のみならず同社の役員についても責任追及が出来ないか検討を開始しました。覆い又は囲いが設置されていないことを認識していたにもかかわらず同設置を検討することなく長年にわたり放置していた疑いやベルトコンベヤーの点検作業時の手順書などの作成に関して現場に丸投げし何らの関心を抱いていなかった疑いが存在したため、当職は、会社のみならず同社役員も被告に加えたうえで提訴しました。
会社及び役員は、上記1記載の反論を再度行いましたが、当職は、たとえ拭取作業時に機械の電源がOFFであったとしても点検作業全体としてみた場合には機械の電源をONにした瞬間がある以上、労働者の身体への危険が存在することは明らかであり、機械の「運転を停止」したとは評価できないことを立法趣旨等に基づき丁寧に主張しました。
また、たとえ覆い又は囲いを設置していない会社が多数存在するとしても、そのことを根拠に法令上の義務が免責されるものではなく単に法令違反の会社が複数存在することを意味するに過ぎないこと、実際に労基署の研修などにおいて覆い又は囲いの設置をしていない会社が複数存在するため同設置を行うように指導されていることなどを主張しました。その結果、Xさんは、和解により会社及び同社の役員から6000万円の解決金を獲得することが出来ました。